大震災の被害に遭われた方に必要

唐薇 医師

临床心理科医師

大震災の被害に遭われた方に必要なメンタルケアとは

世界最大級の被害となった東日本大震災。

災害時の心理状況

半年までの間の心情は複雑に変化する

予期せずに被災に遭ってしまった場合、日常では感じ得ないほどのショックや恐怖、不安、悲痛を抱えてしまうものです。個々人によって異なりますが、災害時の心理状態は大きく分けて、次のようなタームになると考えられています

1.急性期(災害発生直後から数日間)
災害の直後はその衝撃に圧倒され、どの被災者も身体や思考や感情、行動にも影響が現れる。心拍数や活圧の増加、呼吸は速くなり、発汗がおきる。ものごとを合理的に考えることが出来なくなり、集中力や記憶力も低下する。また茫然自失に陥り、不安や恐怖が強く、怒りと悲しみで一杯になるなどの情緒不安定に陥ることもある。行動も硬直化し、イライラしやすく、また非難がましくなって、コミュニケーションが上手くとれなくなる。

2.
反応期(1週間から6週間)
非常事態で興奮し、抑えられていた感情がわき出してくる時期。つらい出来事がよみがえってきたり、悪夢をみたり、緊張が高まり、イライラや孤立感が増し、しばしば抑うつ的になる。特に、家族を失った高齢者は、生き残った事に救われた気持ちと同時に、「若者が亡くなって、役に立たない年寄りの自分が生き残った」という罪業感(サバイバーズギルト)を強く持つ場合がある。

3.
修復期(1ヶ月半から半年)
心理面での適切なケアが受けられた場合や、通常の心理的な回復過程では、悲しみや寂しさが募り、不安を感じることもあるが、混乱した感情が徐々に修復され始める時期。つらい出来事が思い出されると苦しくなるが、少しずつ気持ちが収まり、日常への関心や将来への見通しに目を向けていけるようになる。しかし、一方で突然被災の記憶がよみがえったり、災害を思い出す話題や場所を避ける場合もある。自分が自分でないような感情にとらわれることも珍しくない。抑うつやアルコールの問題なども顕在化しやすい。

また余震が続き、原発の爆発など、日を追うごとに新たな震災の被害が報告される中、新たなショックや恐怖が押し寄せてしまうのは、どんなにタフな精神の方でも避けられないことです。冷静になって物事を考えられるまでには、焦らずに少し時間をかけていく必要があります。

家族や友人からの支えが一番の力になる 

阪神大震災被災者の心を支えてくれたのは?

阪神大震災被災を経験し、神戸市内の一部地区に在住する約2000人以上を対象に、震災約1年後に行われたストレスとメンタルケアに関する意識調査(日本赤十字社まとめ、1995年)があります。これによると、被災時に頼りになり、精神的な支えになった人は、「友人」と答えた人がもっとも多く、ついで「親類」「配偶者」「子ども」「両親」というように、近しい人の存在を多くあげる傾向があることが分かりました。

また、被災した体験を話すことができた相手は、「家族」や「親類」「震災前からの友人」というように、やはり個人的なつながりのある人を挙げる回答が圧倒的であり、少なくとも震災後1年くらいまでの時期に必要とされるメンタルケアでは、精神科医やこころのケアの電話相談、心理学者やカウンセラーなどの心の専門家より、何よりも身近で個人的なつながりの方が大きな心の支えになっていることが伺われます。

 

こんなことに気づいたら
ストレス赤信号!

ストレス状態は、自分では意外に気付きにくいもの。以下の項目は、ストレスがたまっているときによく見られる生活思考のパターンです。ときどきチェックし、ストレス状態を把握していきましょう。

忙しい日々が続いている
仕事や家事などで常に忙しく、翌朝に疲れを残しやすい傾向がある

睡眠に満足感が得られない
よく眠れない。または眠りすぎる。早朝に目が覚めると、それきり眠れない

食欲が変化した
最近、食が細くなった。または、やたらと食べすぎてしまう

1日中憂鬱になることがある
悶々と考え込み、1日中ふさいでしまうことがある

外出が億劫になった
人に会ったり、外で楽しむことが面倒で、1日中部屋にこもることが多い

以前のように趣味を楽しめない
楽しんでいた趣味にも興味を持てず、やる気がしない

常にだるさや肩こりを感じる
体を休めても、だるさや肩こりが解消されない

緊張を強いられる出来事が多い
責任の多い仕事や重要な決断など、緊張を強いられる出来事が増えた

最近、大きなライフイベントがあった
幸不幸に関わらず、人生に関わる大きな出来事や転機があった

胸の内をざっくばらんに話す機会がない
思いのたけを、遠慮せずに話す機会がほとんどない

物事にこだわりやすくなっている
物事にこだわり、「こうしなければ」という思いが強い

周囲に気を使い、評価が気になりすぎる
気を使って笑顔をつくったり、他人の評価を気にしすぎる傾向がある

どちらかというとマイナスに考えやすい
何かを考えるときに、悪い方に悪い方に考えることが多い

自分自身への不満が強い
今の自分を認められず、「自分はダメだ」と思うことが多い

他人や物事に苛立つことが多い
周りの人や出来事にイライラし、怒りを募らせることが多い

やたらに焦ってしまい、落ち着けない
焦って早急に物事を片付けようとし、落ち着くことができない

以上の多くにチェックが入った人は、かなりストレスがたまっている可能性があります。そのまま蓄積されると、心の病気体の病気を招く可能性があります。

 

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

PTSDとは''Post-Traumatic Stress Disorder, 心的外傷後ストレス障害''の略語で、強いストレスを負った後に暫く(通常は半年以上)してから、様々な精神症状と生じる心の病気です。具体的には以下のような症状が認められます。

精神的不安定による不安、不眠などの過覚醒症状
トラウマの原因になった障害、関連する事物に対しての回避傾向
事故事件犯罪の目撃体験等の一部や、全体に関わる追体験(フラッシュバック)

この結果、精神的苦痛もさることながら、その後の生活人生においても回避や歪曲といった様々な障害ももたらずことになってしまいます。ついては心療内科や精神科医において、適切な治療が望まれます。

具体的にはSSRIといった抗うつ薬による''薬物療法''と適切な''精神療法''が必要です。精神療法は本人の心理的苦痛に対する''支持的''な対応と、それに伴う様々な''認知行動''の歪みに対する''再構成''が求められます。PTSDになられてしまった方は、外傷体験に対して自分が悪かったからと自責的になっていたり、周囲に対して必要以上に被害的になっていたりと、「後遺症」を生じています。これらの問題は直ぐに治るものではありませんが、時間をかけて、丁寧に治療することで段々と和らいでいきます。ですから将来に対して悲観的にならず、どうぞ前向きに取り組まれて下さい。